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スタッフブログ

2022.01.28

『ヴァイオリニストの第五楽章』前橋汀子

幼い頃からの前橋さんの写真も見どころです

毎年6月の恒例となっている前橋汀子さんの「ヴァイオリン名曲選」ですが、一昨年と昨年は残念ながら中止となってしまいました。今年は演奏活動60周年記念!なんとしても今年こそは無事開催できることを願っています。
さて、その前橋さんのコンサートを更に楽しむために、お薦めしたいのが、2020年11月に刊行された『ヴァイオリニストの第五楽章』(日本経済新聞出版)。前橋さんの音楽との歩み、ヴァイオリンの名曲にまつわる思い出、ロシア文学者の亀山郁夫さんとの対談という3本立てで構成されたエッセイ集です。
小野アンナ、齋藤秀雄、ミハイル・ワイマン、ロバート・マン、ヨーゼフ・シゲティ等々。名だたる名伯楽の元で、謙虚な姿勢でそれでいてどこまでも貪欲に学ぼうとする前橋さんの姿には心打たれます。
レニングラード音楽院で教わったという、小指を起点にする左手の指の押え方。この奏法を体得するまでに十年以上を要したものの、それを自分のものにしたことで、余計な力の入らない、身体に負担のない弾き方ができるようになり、長く現役で活動できているという話は印象に残りました。
また、前橋さんが留学した当時のソ連の時代背景、スターリン後の雪解け時代が、その音楽性の醸成に大きな影響があったこと、社会主義下のソ連では一切差別も偏見も受けなかったこと、様々なめぐり合わせが前橋さんの音色を形成していることがわかります。
「ヴァイオリン名曲選」では、毎年珠玉の小品がプログラムに組み込まれますが、前橋さんの小品への思いが本書で述べられています。「小品とは余計なものをそぎ落としていった後に残る本質であり、そこに作曲家の人間性が反映されている。だから人の心を動かすのだ。」(p.111)
引用元:前橋汀子『ヴァイオリニストの第五楽章』(日本経済新聞出版、2020年発行)

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