スタッフブログ
美術館・博物館
2023.04.20
中之島香雪美術館 「修理のあとに エトセトラ」
中之島香雪美術館で開催中の「修理のあとに エトセトラ」。今まで、国内外の美術館で修復された名画や工芸品を目にするたび、それが本来の姿なのか、通常どこまで手を加えるのか気になっていました。今回、その答えが見つかるかも、と期待して行ってきました。
会場入り口で出品目録を手に取ると、修理の手順が書かれた鑑賞ガイド(画像やイラストなど図解あり)がついていました。例えば掛軸の場合、書画がかかれた本紙(絹など)には裏打紙が何層もつけられています。それらをピンセットで丁寧に剥がし、本紙のみの状態にします。そして修理後に新たな裏打紙を重ねていくそうです。作業の様子はビデオでも紹介されていて、その緻密さに気が遠くなりました。
香雪美術館では、色落ちや文字の剥落など失われたものはそのまま、最低限の補修をして、保管時に作品を傷めないよう様々な工夫を凝らされています。すべては、貴重な作品を後世に伝えるため。修復してきた前世の人に敬意を払い、後世の人へとつないでいく。美術館と修理を担う職人の想いが伝わってきて、胸が熱くなりました。皆さんもぜひ足を運んでみてください。
展覧会は5月21日(日)まで。朝日友の会会員証提示で一般が2人まで団体料金に割引です。

修理の終わった「聖徳太子絵伝」(第9幅)

「聖徳太子絵伝」の旧表具には火災に遭ったような痕が・・

「愛染明王像」の軸を優しく保存するための太巻き
2023.04.18
京都市京セラ美術館 『生誕100年 回顧展 石本 正』
チラシとクリアファイルと作品リスト
学生の頃、授業の課題として描いた作品から、未完となった最期の作品まで、生涯を通した画業の全貌を通覧できる展覧会でした。作品解説の中で時おり触れられるご本人の言葉、1971年の日本芸術大賞と芸術選奨文部大臣賞の受賞以降、すべての賞を辞退し地位や名声を求めなかったこと、川端康成との交流エピソード、故郷の人たちと触れ合う絵画教室の開催など、作品の奥や周辺に垣間見える作家自身の人となりもとても魅力的な方です。
本展でピックアップしたいのは、作品番号46の『五条坂風景(五条坂)』と99の『ポンテ・ベッキョ』です。線と面だけで構成されており、人も動物も植物も登場しない硬質な風景画。色合いも青やグレーを基調としており、こうして文字だけで表現すると、とても冷たい無機質な作品のようですが、そんな単純な捉え方では収まらない存在感を放っていました。ただそこにあるものを感じなさいと促してくれているようで、対象を視覚だけでなく五感の全てで感じることの大切さを思い出させてくれました。
『生誕100年 回顧展 石本 正』は5/28(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で団体料金に割引になります(5人まで)。
2023.04.13
京都国立博物館 『親鸞-生涯と名宝』
平成知新館と『親鸞-生涯と名宝』の看板
鑑賞に3時間余り費やすほどの充実ぶりでした。国宝『顕浄土真実教行証文類』(『教行信証』)の「坂東本」をはじめ、親鸞自筆のものも数多く展示されており、生涯を通じて教義と真摯に向き合い続けた姿勢の表れといえる細かな加筆修正や注釈、文字を解さない東国の市井の人に教えを説くためには、どのような言葉で伝えればいいのか心を砕いた様子に、襟を正す気持ちになりました。
親鸞の生涯を辿る上で必見の作品ばかりの中、個人的に印象深かったのは、作品番号42「本願寺親鸞聖人伝絵(康樂寺本)」、43「本願寺聖人親鸞伝絵(弘願本)」、64「拾遺古徳伝絵」の伝絵(でんね)3点と79「善鸞義絶状」です。前者には、親鸞が法然から『選択本願念仏集』の書写と真影(しんねい、※肖像のこと)の製作を許された場面が描かれており、師に認められた喜びが若き親鸞から伝わってくるようでした。後者は、誤った教えを是正するために東国に派遣した息子の善鸞が教えに背くような布教を行ったことから、親子の縁を切ると伝える書状(弟子・顕智の書写)です。齢80を超えての辛い出来事。親鸞の苦難に満ちた人生を象徴しており、そのときの心中は察するに余りあります。
『親鸞-生涯と名宝』は5/21(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で団体料金に割引になります(3人まで)。
2023.03.23
髙島屋大阪店 『京都 細見美術館の名品 琳派、若冲、ときめきの日本美術』
チラシ、出品目録、クリアファイル(酒井抱一『桜に小禽図』)
「1.祈りのかたち」と「2.数寄の心」のセクションでは、経年変化がもたらすしっとりとした味わいが印象的でした。二次元、または三次元の作品の中にある四次元の広がり。3D映像などの対象物から働きかけられるダイナミズムとは正反対の、じっと鑑賞していると作品に刻まれた悠久の営みの中に引き込まれていくような感覚を味わいました。
「3.華やぎのとき」では、作品番号50『江戸風俗図鑑』がお気に入りです。江戸後期の様々な身分・職業の男女が解説付きで描かれた図鑑なのですが、展示されていた中に「子を思う親父」がありました。親父といっても、70代~80代くらいに見えます。仮にそのくらいの年齢だとすれば、「子」とはきっと40~50代くらい。幾つになっても、親は親、子は子といったところでしょうか。江戸時代の「親父」なので現代とは外見への年齢の表れ方は違うのでしょうが、何だか身につまされます。
「4.琳派への憧れ」の中から1点選ぶなら、作品番号82『業平東下り図』。表具部分も絵具で描く描表装の作品で、多層的な奥行きがあり、万華鏡のような不思議な魅力がありました。
最後の「5.若冲のちから」は必見!ズラリと並んだ若冲の墨画が圧巻です。
『京都 細見美術館の名品 琳派、若冲、ときめきの日本美術』は4/10(月)まで開催。朝日友の会会員証の提示で無料になります(1人)。
2023.03.13
髙島屋大阪店 『第69回 日本伝統工芸展』
チラシと出品目録
殆どの作品はガラスケースを通さずに鑑賞できたので、作品に触れないように気をつけつつも、可能な限り近づいてじっと目を凝らして細部を見ることができました。会場は、ゾーン分けはされていましたが、パーテーションによる仕切りはなかったので、「あの作品、もう一回見たい!」と思うと気楽に行き来できたのが良かったです。
どれもこれも美しく繊細で貴重な技術を継承するものばかり。私の目にはすべての作品が甲乙つけ難く感じられました。ということで、今回は意外性やユーモアという観点から、印象に残った作品を以下、ご紹介します。
一つ目は、作品№228。江戸小紋着尺「Ken Ken Pa!」(小宮康義)。このタイトルは何?と思い、よーく見ると…細かく縦に並んでいる模様は、足跡。片足片足両足、片足片足両足。ケンケンパ、ケンケンパ。な~るほど、そういうことかと腑に落ちる何とも微笑ましい作品です。
二つ目は、作品№242。日本工芸会奨励賞を受賞した刺繍着物「仰ぐ」(武部由紀子)。曲線に目を奪われる作品が多い中、シャープな直線美が印象的です。ヨーロッパのカトリック教会の内部で、先が細くなっている塔を下から仰ぎ見たときのイメージだそうです。
三つ目は、作品№498。木芯桐塑木目込「継ぎだらけの堪忍袋」(福井道子)。既に何度も破裂して継ぎだらけになった堪忍袋。木目込み人形は、今にも破裂しそうなパンパンの堪忍袋の緒をギュッと握っています。「プンプン!」と吹き出しを付けたくなるような人間味溢れる表情が秀逸です。
『第69回 日本伝統工芸展』は3/14(火)まで開催。朝日友の会会員証の提示で無料になります(1人)。
2023.03.08
上方浮世絵館 『大阪の役者絵 中判へのいざない』

一養亭芳瀧『今様源氏五十四帖之内』

一養亭芳瀧『契情玉手箱』
水野忠邦の天保の改革によって、春画や役者絵などの出版が禁止され浮世絵は大きな制限を受けました。その後、弘化期に復活した際には、天保以前の大判から中判に判型を変えて、大阪の役者絵は再び隆盛します。本展は、この中判の役者絵にスポットを当て、同じ題材の作品の大判と中判を並べて展示するなど、比較しながら楽しめる構成になっていました。
今回のお気に入りは、一養亭芳瀧『今様源氏五十四帖之内』と、同じく芳瀧の『契情玉手箱』。前者は、背景を排して大胆に源氏香の文様を施した作品。デザイン性が高くとてもファッショナブルで、芳瀧のセンスに感心しました。後者は北の篁が手に持っている灯が放つ光線内外のくっきりとした描き分けが特徴的で印象に残りました。
上方浮世絵館は法善寺向かいの賑やかなところにありますが、館内は静かでゆったりじっくりと鑑賞できました。帰りに久しぶりにアルションでクレープを!と思いましたが、行列になっていたので諦めました。残念!😢
『大阪の役者絵 中判へのいざない』は5/28(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で50円割引とポストカード1枚プレゼント(5人)。
2023.03.02
美術館「えき」KYOTO 『ミュシャ展~マルチ・アーティストの先駆者』

NO.71 コルナ紙幣、郵便切手など

NO.101 学生時代のノートと複製

NO.125 挿絵原画
ミュシャの生家近くに在住し親子三代に渡って収集された膨大なチマル・コレクションからの出展です。代表的なポスターだけでなく、書籍の挿絵、商品のパッケージ・デザイン、直筆の素描や水彩画など、ミュシャの多彩な多才ぶりを存分に堪能できました。それまで王侯貴族の庇護下で発展してきた芸術が、広く庶民にも共有されるようになる過程で、ミュシャの放った存在感は格別のものがあります。工業技術の向上による再現性の進化とミュシャの繊細な表現が見事にマッチしており、美麗な実用品を手にする喜びを、当時の人々と共有しているような気持ちになれました。
特に心に残っているのは、作品番号71「チェコスロヴァキアのコルナ紙幣、郵便切手とデザイン画」、同101「素描集『学生時代のノート』と内部の複製」、同123~128「クサヴィエ・マルミエ著『おばあさんのお話』の挿絵原画」です。ミュシャの多彩な多才ぶり(しつこいって?…スミマセン)を象徴しているように感じられました。
『ミュシャ展~マルチ・アーティストの先駆者』は3/26(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で優待料金に割引になります(4人)。
2023.02.20
中之島香雪美術館 「館蔵 刀装具コレクション」
暖かくなったと思ったら寒の戻り…。なかなか一気に春へと向かってくれませんね。季節の変わり目です。会員の皆さんもどうぞご自愛ください。
先日、中之島香雪美術館で開催中の「館蔵 刀装具コレクション」へ行ってきました。刀剣の知識がまったくない私、「刀装具って?刀剣を飾る道具?」と考えてみてもよく分からず会場へ。まずは、パネルで「刀装具」の部位や名称、役割について学びました。
刀装具とは、戦いなどで刀剣が損傷しないように守るための道具で、江戸時代には武士の地位や権力を示すものとなり、次第に芸術性が高まっていったそうです。手に握る長い柄(つか)の中央にあるのは、滑り止めにもなる「目貫(めぬき)」。展示品を見ると、2、3センチほどでの小さなもので、家紋や縁起物、動植物など様々な形をしています。目を凝らすと細部まで美しく、動物のしぐさや表情も愛らしい。他にもペーパーナイフの役割を持つ「小柄(こづか)」や髪を整える「笄(こうがい)」などが刀の鞘(さや)に取り付けられ、現代のイケオジに通じる武士の美意識を感じました。そして、時代の変遷とともにデザインが多彩になり、持ち主のこだわりも強く反映されるのがおもしろかったです。皆さんもぜひ、小宇宙の芸術を体験してみてください。できれば双眼鏡持参がおすすめです。

2023.02.02
あべのハルカス美術館 『アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界』
19世紀後半、ヴィクトリア朝時代の興味深い展示物がたくさん
狂ったお茶会のインスタレーション
アニー・リーボヴィッツが撮ったアリスの世界観も好きです
原作の誕生から、映画、舞台、広告素材や表現行為のモチーフとしてのアリスなど、アリスにまつわる様々な創作物を総覧した展覧会でした。数学者であり論理学にも長けたチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ルイス・キャロル)から創造された物語が、既存の秩序の中で息苦しさを覚えるクリエイターたちのインスピレーションを今なお刺激し続けています。そのこと自体が、アリスの物語の中で展開されている事象であるかのように、現実感を失う感覚を覚えました。ジェットコースターに乗った後、地に足をつけているのに、上下左右のわからない浮遊感が残るような…
さて、本展で特に好きだったのは、作品番号145~163のティム・バートンのキャラクターデザインと、作品番号198~201のラルフ・ステッドマンの挿絵です。音もCGもなく、紙とインクだけで表現される二次元空間に、愛嬌のあるキャラクターが活き活きと描かれています。
『アリス-へんてこりん、へんてこりんな世界』は3/5(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で半額になります(1人、同伴1人を団体料金に割引)。
2022.11.17
中之島香雪美術館 『伊勢物語 絵になる男の一代記』

「伊勢物語図色紙」香雪美術館蔵のA5クリアファイル
華やかな平安絵巻を期待して行ったところ…いや、もちろん期待通りではあったのですが、煌びやかな絵巻物の印象よりも、学術的な考察が大変興味深く、勉強になる展覧会でした。
第四十九段の「琴」の有無とその場に描かれている兄と妹の佇まいから伝わる雰囲気。よそよそしいのか、仲睦まじいのか。物語絵の共通点から導き出される、基本となる型の絵があったのではないかという考察。並べ、比較し、考え、読み解く面白さが伝わってきました。
さて、学術的とはいっても、毎度挙げているように、今回もお気に入りはピックアップしておきます。作品番号20の『伊勢物語絵巻』です。緻密な部分と、大雑把に省略されている部分があったり、周囲との対比で明らかに大きく描かれている草花があったり、独特の表現で印象に残りました。もちろん香雪本の『伊勢物語図色紙』も微細なところまで描き込まれた良作で必見です!
『伊勢物語 絵になる男の一代記』は11/27(日)まで開催。朝日友の会会員証の提示で団体料金に割引になります(2人まで)。